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脊椎関節炎とは
脊椎関節炎は、主に脊椎や仙腸関節といった体幹部の関節に炎症を引き起こす慢性の炎症性疾患の総称です。ときに末梢の付着部炎や関節炎も生じことがあります。脊椎関節炎は、主に脊椎や仙腸関節に症状をきたす体軸性脊椎関節炎と、末梢の関節や付着部に症状をきたす末梢性脊椎関節炎の2つに分類されます。このうち、体軸性脊椎関節炎には強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nonradiographic axial spondyloarthritis)が含まれ、末梢性脊椎関節炎には乾癬性関節、炎反応性関節炎、反応性関節炎、ぶどう膜炎関連脊椎関節炎、炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎などが含まれます。
脊椎関節炎は、若年成人に発症することが多く、特に男性に多いとされています。初期症状としては、腰痛や背部痛、臀部痛が挙げられ、これらの痛みは安静時や夜間や早朝に悪化しやすく、運動によって軽快することが多いとされます。放置すると、脊椎や関節などが固まってしまい、動かなくなることで、日常生活に大きな支障をきたす可能性があるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
また、眼、皮膚、腸、心臓、肺など全身の合併症を伴うことがあるため、包括的な管理が求められます。当院では正確な診断を行い、最適な治療を提案させていただきます。
なお、当院は東京都難病指定医療機関であり、強直性脊椎炎の難病申請・更新が可能です。また、当院での診療は指定難病における医療費助成の対象となります。
脊椎関節炎の症状
脊椎関節炎では、以下のような症状が現れることがあります。
- 夜間や早朝に強くなる腰痛と運動後の改善
- 朝の腰や背中のこわばりが1時間以上続く
- 肋骨と胸骨の痛み、深呼吸での悪化
- 片側または両側の臀部痛が動作で悪化
- 背中全体の痛みと脊椎の可動性低下
- 膝、足首、手首などの関節の腫れと痛み
- かかとの痛み、特に朝の一歩目が痛む
- 慢性的な疲労感
- 目の痛みや赤み、光に対する過敏感
- 皮膚の鱗屑を伴う赤い発疹、長引く下痢 など
また、以下5項目のうち、4項目以上当てはまる方は、脊椎関節炎などによる付着部炎の症状(炎症性腰背部痛)である可能性が高いと言えます。
- 40歳になる前から痛みがある
- 徐々に痛みを感じるようになった
- 動くことで痛みがやわらぐ
- じっとしていても痛みは良くならない
- 夜、痛みがある(起きていると良くなる)
脊椎関節炎の原因
脊椎関節炎の原因は未だ明らかになっていませんが、以下のような複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
HLA-B27の遺伝的要因
HLA-B27は脊椎関節炎の発症に強く関連する遺伝子で、HLA-B27陽性の人は脊椎関節炎を発症するリスクが高まります。HLA-B27蛋白は、細胞内でつくられた後、正しく折り畳まれずにミスフォールドを起こす、これにより免疫細胞が異常に活性化され、自己組織の炎症が生じる原因となる可能性が示唆されています。強直性脊椎炎においては、約90%の患者様がHLA-B27遺伝子を保有しているとされています。
免疫系の異常
IL-17やTNF-αなどの炎症性サイトカインが過剰に産生され、関節や腱付着部に炎症を引き起こします。特にIL-17を産生するTh17細胞が腱付着部炎の病態に関与するとされています。
メカニカルストレス
腱や靭帯の付着部におけるメカニカルストレスが、微細な損傷を引き起こして自己抗原を露出させたり、炎症性サイトカインの産生を促進したりすることで、局所の持続的な炎症を引き起こす可能性が示唆されています。
環境要因
細菌感染やその他の外的要因が脊椎関節炎の発症に関与する可能性が示唆されています。特に、腸管感染症や腸内細菌叢の変化が免疫系に影響を与え、炎症を引き起こすことが想定されています。腸と関節の間には「gut-joint axis」と呼ばれる関係があり、腸の炎症が関節炎に関連すると考えられています。特にHLA-B27陽性の方において、この腸内環境の変化が脊椎関節炎の発症に大きく寄与していると考えられています。
生活習慣
喫煙や過度のストレスが免疫系を不安定にし、脊椎関節炎のリスクを高める要因とされています。喫煙は特に免疫系を刺激し、炎症性サイトカインの産生を増加させることで、病気の進行を悪化させることが知られています。
脊椎関節炎の検査
脊椎関節炎の診療にはさまざまな検査が必要です。
血液検査
脊椎関節炎の診断や病状の把握には、血液検査が役立ちます。特に、HLA-B27遺伝子の有無を確認することで、脊椎関節炎のリスクを評価します。また、CRPなどの炎症マーカーを測定することで、ご病状の把握が可能です。
X線検査
脊椎のX線では、椎体縁の硬化・びらん、椎体の方形化、椎体間の靭帯骨棘(syndesmophyte)などがみられ、重症の場合、竹様脊椎(bamboo spine)、Andersson lesion(骨破壊・骨折による偽関節の形成)などが見られることがあります。また、仙腸関節のX線では、関節裂隙狭小化、広範な骨びらん、骨性強直などが見られ、改訂ニューヨーク基準を用いた診断において重要な所見となります。
MRI
発症初期には、X線などで異常が検出されないことがあり、この段階を「non-radiographic」(改訂ニューヨーク基準のX線基準を満たさない状態)と呼びます。しかし、この時期にもMRIでは早期の炎症を捉えることができるため、早期診断に非常に有用です。脊椎の靱帯付着部や仙腸関節における活動性炎症や骨髄浮腫などを早期より反映し、STIRにて同部位に高信号を示します。
検査は当院の連携施設で実施し、迅速な結果説明が可能です(最短当日)。
脊椎関節炎の治療
脊椎関節炎の治療は、ASAS/EULARのリコメンデーション(2022年改訂版)などに基づいて、以下のような治療が行われます。
非ステロイド性抗炎症薬
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は脊椎関節炎の初期治療の基本となります。これらの薬は、疼痛と炎症を抑えるために使用されます。NSAIDsの効果が不十分な場合には、他の治療法を考慮します。
生物学的製剤
TNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブなど)、IL-17阻害薬(セクキヌマブなど)は、NSAIDsで十分な効果が得られない場合に使用されます。特に、CRP高値や画像的に仙腸関節炎が見られる患者様で使用します。再発性ぶどう膜炎や炎症性腸疾患を合併している場合にはTNF阻害薬が、重度の乾癬を合併している場合にはIL-17阻害薬が選択されます。寛解を維持したら、すぐに中止するのではなく、徐々に減量する(間隔を延長する)ことを検討します。
従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬
メトトレキサートやサラゾスルファピリジンなどの従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬は、関節の末梢症状が主に現れる患者に用いられることがありますが(*)、体軸関節の症状にはあまり効果が期待できません。
*適応外
JAK阻害薬
ウパダシチニブなどのJAK阻害薬は、生物学的製剤と同等の位置付けにはなっていますが、実際の診療においてはTNF阻害薬、IL-17阻害薬から開始することとなっています。
このように、脊椎関節炎の治療は、患者様のご病状や治療の経過などに応じて個別に決定されます。
(2024年9月9日時点)