全身性エリテマトーデス

  • HOME
  • 全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデスとは

全身性エリテマトーデスとは

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)は、免疫の異常によって全身の様々な臓器や組織に炎症が生じる慢性の炎症性疾患です。特に皮膚、関節、腎臓、神経系などが影響を受けやすく、患者様ごとに症状の現れ方が異なります。SLEの特徴的な症状には、蝶形紅斑と呼ばれる顔の発疹や、関節痛、光線過敏などがあります。女性に多く見られ、特に20〜40歳代に発症することが多いです。重篤な臓器障害が生じると生命を脅かすことがあるため、臓器障害の有無を的確に評価し、早期に適切な治療を開始する必要があります。近年、治療の進歩により、免疫抑制剤や生物学的製剤などを上手に駆使することで、より安全に、より良い治療ができるようになりました。

まずは早期診断が重要です。少しでも心配な症状があれば、当院へご相談ください。
なお、当院は東京都難病指定医療機関であり、SLEの難病申請・更新が可能です。また、当院での診療は指定難病における医療費助成の対象となります。

全身性エリテマトーデスの症状

全身性エリテマトーデスでは、以下のような症状が現れることがあります。

  • 顔の頬や鼻に現れる赤い発疹(蝶形紅斑)
  • 手指や膝などの関節に痛みを感じる
  • 日光に当たることで皮膚に発疹やただれが生じる(光線過敏症)
  • 原因不明の発熱が続く
  • 全身のだるさや疲れやすさを感じる
  • 髪の毛が抜けやすくなる
  • 寒冷やストレスで手足の指先が白くまたは青紫色に変色する(レイノー現象)
  • 口の中に痛みのない口内炎ができる(口腔内潰瘍)
  • 足がむくみやすく、体重が増えた
  • 胸痛や息切れ など

全身性エリテマトーデスの原因

全身性エリテマトーデス(SLE)の根本的な原因は未だに明らかになっていませんが、その発症には、以下のような複数の免疫学的要因、環境要因などが関与していると考えられています。

B細胞の異常な活性化と自己抗体の過剰産生

SLEでは、B細胞が異常に活性化されることで、自己抗体を産生するB細胞が淘汰されず、末梢性自己寛容(自己を攻撃してしまう免疫細胞が排除される仕組み)が破綻します。この結果、自己抗体が過剰に産生され、全身の自己組織を攻撃することで炎症が生じます。

免疫複合体の形成と組織への沈着による臓器障害

自己抗体は自己抗原と結合し、免疫複合体を形成します。免疫複合体は、血管壁や腎臓、皮膚など全身のさまざまな部位に沈着し、補体の活性化を通じて強い炎症が引き起こされ、これが臓器障害につながります。腎臓においては、特に糸球体に免疫複合体が沈着し、ループス腎炎と呼ばれる重篤な臓器障害を引き起こすことがあります。

死細胞のクリアランス低下

アポトーシスは細胞が計画的に死ぬ過程ですが、この過程で生じた死細胞の残骸が、SLEでは除去(クリアランス)されにくくなっていることが知られています。貪食細胞による残骸のクリアランスが不完全な場合、これらの残骸が免疫系に認識され、異常な免疫応答が引き起こされます。特に核酸などの核成分のクリアランスが低下することで、自己抗原が免疫系に曝露され、免疫応答が増強されると考えられます。

ウイルス感染との関連

EBウイルスなどの感染がSLEの発症や悪化に関与していると考えられています。これらのウイルスは免疫系に過剰な刺激を与え、免疫系の異常を引き起こすきっかけになる可能性があります。

遺伝的要因

SLEの発症には遺伝的要因も強く関与しています。HLA-DR2やHLA-DR3などの特定のアレルを持つ方では、SLEの発症リスクが高いことが報告されています。

女性ホルモンの関与

SLEは女性に多く見られ、特に出産年齢の女性に好発します。エストロゲンをはじめとする女性ホルモンが、B細胞の活性化など免疫系への影響を介して、SLEの発症に関与している可能性があります。

これらの要因が複雑に絡み合い、SLEの多様な症状や臓器障害を引き起こすと考えられています。

全身性エリテマトーデスの検査

全身性エリテマトーデス(SLE)が疑われる場合、診断のための検査が必要となります。また、SLEと診断された場合、どのような臓器障害が隠れているかを検査します。

初診時はまず血液検査のみを行い、SLEの可能性があるかを評価します。また、その後も全ての検査を行うわけではなく、患者様のご病状に合わせて必要な検査を選択します。

抗核抗体・特異抗体

抗核抗体はSLEの診断において最も重要な検査であり、ほぼ全ての患者様で陽性となります。したがって、抗核抗体が陰性であれば、SLEがほぼ否定できることになります。また、抗二本鎖DNA抗体や抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなど)は、SLEに特異的な自己抗体であり、これらも診断において重要です。さらに、抗二本鎖DNA抗体は病気の活動性と相関することが知られており、治療効果判定などにも用いられます。

補体

補体(C3、C4、CH50)の低下は病気の活動性を示唆し、特にC3の低下が重要な所見です。

血算

SLEでは、病気の活動性に伴い、貧血、白血球減少、血小板減少などの血球減少が見られることがあります。SLEによる血球減少や治療の副作用を評価するために必要です。

直接クームス試験

SLE自体の診断、SLEに合併する自己免疫性溶血性貧血の診断において重要な検査です。

梅毒反応生物学的偽陽性

SLEでは、梅毒検査で偽陽性反応が出ることがあります。これは抗リン脂質抗体の存在と関連しており、SLEの診断において重要な所見です。

C反応性タンパク(CRP)

SLEの中には、漿膜炎や関節炎、腸炎など一部の病態においてCRPが上昇することがありますが、その他ではCRPが上がらず、一般的には病気の活動性と相関しません。そのため、SLEの治療中にCRPが上昇した場合は、むしろ感染症などの可能性を考慮する必要があります。

尿検査

ループス腎炎のスクリーニングや評価に重要であり、尿蛋白や尿潜血の有無を確認します。また、尿沈渣では、多彩な細胞性円柱を認めることがあり、腎糸球体における増殖性変化が示唆されます。

腎生検

尿所見などからループス腎炎の存在が疑われる場合、その診断と病型分類のために腎生検を行います。ループス腎炎の病型分類は治療方針決定のために必要です。

神経症状が疑われる場合の髄液検査

神経精神ループス(NPSLE)が疑われる場合、髄液検査が行われます。髄液中の蛋白増加や細胞増多、髄液中IgGの相対的上昇(IgG index)、髄液中の自己抗体の存在などがNPSLEの診断根拠となります。

X線検査

胸膜炎や心膜炎の合併がないかを評価するため、胸部X線検査を行います。

心エコー検査

心膜炎による心嚢液貯留がないか、肺高血圧症の合併がないかなどを評価するため、心エコー検査を行います。

一部は入院して行う検査です。入院が必要となる場合は、適切な連携医療機関へ紹介をさせていただきます。

全身性エリテマトーデスの治療

全身性エリテマトーデス(SLE)は患者様によってご病状がさまざまです。個々のご病状や治療の経過に合わせて最適な治療薬の選択と、その用量の設定が行われます。

なお、SLEの治療は日々進歩し、より良い治療法が開発されてきています。そのため、昔の治療を漫然と継続するのではなく、最新の標準治療(2023年EULARリコメンデーション、本邦のSLE診療ガイドライン2019)を治療選択肢の一つとして随時検討していくことが重要です。

ヒドロキシクロロキン

ヒドロキシクロロキンは、SLE治療の第一選択薬で、全ての患者様に推奨されます。
皮膚や関節の症状に有効であるだけでなく、病気全体の管理にも役立ち、再燃の予防にも効果的です。再燃リスクなどを考慮しながら、体重1kgあたり5mg/日を目標用量とします。ヒドロキシクロロキンの使用により、ステロイドの減量も期待できます。

また、網膜症のリスクを考慮し、定期的な眼科検診が必要です。
さらに、妊娠中も使用でき、抗SS-A抗体陽性妊婦の方における新生児ループス(抗SS-A抗体よる赤ちゃんへの影響)のリスクを軽減できる可能性が示唆されています。

ステロイド

ステロイドの中でもプレドニゾロンという薬を使用することが一般的です。臓器病変の種類と重症度によって必要な用量が決定されます。例えば、重症のループス腎炎を合併する場合には、プレドニゾロン50mg/日あるいはステロイドパルス療法(+低用量ステロイドによる後療法)などの高用量ステロイドにより治療が開始します。

寛解(十分に症状や検査所見が良くなった状態)が得られたら、可能な限り速やかに減量します。再発しないための維持量(プレドニゾロン5mg/日以下)まで減量し、可能なら中止します。

免疫抑制剤

ミコフェノール酸モフェチル

主にループス腎炎の初期治療および維持療法で使用します。特に、増殖性ループス腎炎に対しては、
低用量シクロホスファミド(EuroLupus方式)と並んで第一選択肢とされています。また、タクロリムスと併用することがあります。
ミコフェノール酸モフェチル(MMF)単独またはベリムマブやカルシニューリン阻害剤(タクロリムスなど)との併用で寛解が得られたら、これらの薬剤を維持療法として継続します。
なお、妊娠・授乳中にMMFを使用することはできないため、注意が必要です。

シクロホスファミド

点滴で使用することが一般的です。
重症のループス腎炎、神経精神ループス、および重篤な血液障害など生命を脅かす重症の臓器障害を有する方に使用します。
特に腎不全のリスクが高い場合(具体的には、GFRという腎機能の数値が低いか、腎臓の病理組織に細胞性半月体形成やフィブリノイド壊死などの所見が見られる場合)、高用量での使用(NIH方式)を考慮します。
寛解が得られたあとは、MMFやアザチオプリンに切り替えて維持療法を行います。

なお、卵巣機能障害のリスクがあり、累積投与量に注意が必要です。体表面積1平米あたり7.5g以上(20歳未満)となると、約8割の方が不可逆的な無月経に至ります。

タクロリムス

主にループス腎炎の患者様に対して、MMFやベリムマブと併用します。特に、MMFとの併用療法は、従来の高用量シクロホスファミドに対して治療の優位性があることが示されています。

タクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬は、T細胞特異的な免疫抑制作用だけでなく、P糖蛋白(細胞内に取り込まれたステロイドを細胞外へ吐き出す蛋白)の阻害作用を持つため、ステロイドの作用増強効果が期待されます。そのため、さまざまな病態においてステロイドと併用されることがあります。
ちなみに、タクロリムスは欧州のガイドラインでも推奨されている世界的な薬剤ですが、日本の筑波山の土壌細菌から分離された筑波発の薬剤です。(Tacrolimusの「T」はTsukubaの「T」です。)

アザチオプリン

SLEの維持療法に使用する薬剤です。特に、シクロホスファミドによる寛解導入後の維持療法に選択します。
妊娠、授乳中も使いやすい薬剤です。一方、長期使用による細胞毒性に注意が必要です。

メトトレキサート

SLEの皮膚症状や関節症状に対して用います。特に、ヒドロキシクロロキンに反応しない場合などに第二選択として考慮します。(適応外)

生物学的製剤

ベリムマブ

ベリムマブ(ベンリスタ®️)は、B細胞活性化因子(BAFFまたはBLyS)を標的とする抗体製剤です。BAFFはB細胞の生存と分化に重要な役割を果たす分子です。SLEではBAFFが過剰に産生されることで、病気を引き起こす自己反応性B細胞という免疫細胞が淘汰されず、自己抗体の産生が促進されます。ベリムマブはBAFFをブロックすることで、自己反応性B細胞の生存を抑え、自己抗体の産生を減少させることで、SLEのさまざまな病態を改善します。

活動性のループス腎炎に対して、その他の治療と併用します。寛解導入後の維持療法でも推奨され、再燃のリスクを軽減し、ご病気を安定化させることができます。
ベリムマブは感染症のリスクが比較的低く、多くの患者様において使いやすい薬剤です。また、ベリムマブには点滴製剤と自己注射製剤(皮下注射)があり、当院では自己注射製剤を使用しています。

アニフロルマブ(サフネロー®️)

アニフロルマブは、インターフェロンα受容体(IFNAR1)を標的とする抗体製剤です。インターフェロンαはSLEの病態形成に関わる炎症性サイトカインで、そのシグナルは多くの免疫細胞を活性化し、SLEを悪化させます。

アニフロルマブは、その受容体に結合してインターフェロンαのシグナルをブロックし、SLEに関連するさまざまな病態を改善させます。特に、皮膚や関節の症状に有効です。
点滴の薬剤です。

リツキシマブ

リツキシマブはB細胞表面に発現するCD20分子を標的とする抗体製剤です。B細胞のうち、自己抗体を産生する自己反応性B細胞がSLEの病態形成に関与しています。

リツキシマブは、CD20に結合することでB細胞を破壊し、これにより自己抗体の産生を抑制することでSLEのさまざまな病態を改善させます。特に、ループス腎炎や神経精神ループスなどの重篤な臓器障害がある場合に使用し、シクロホスファミドが効果を示さない、または使用が困難なときに選択します。
点滴の薬剤です。

 

上記のうち、一部の治療では入院が必要です。その際は、適切な連携医療機関へ紹介をさせていただきます。

(2024年9月9日時点)

ご予約・お問い合わせ

03-3766-3300

24時間受付中

WEB予約